2020年の東京オリンピックで空手が正式種目に決まりました。多くの空手選手や空手ファンにとって、今回のオリンピック正式種目採用は大きな喜びとなったに違いありません。
今や知らない人はいない「空手」は、時期は確定的ではありませんが琉球王国(現在の沖縄県)が発祥です。長い間、秘技として琉球内では「手」(テー)と呼ばれていたものが14世紀後半に中国拳法の要素が加わり、「唐手」(トーテー)へ、そして「空手」へと変遷してきました。
空手の競技には大きく分けて、実際に相手と対戦する「組手競技」、そして多数の敵との攻防を想定して一連の動きを演武する形式で行われる「型(形)競技」の2種類があります。
女子選手は「型競技」をやる選手が「組手」よりは多いと言われますが、そんな女子の中で、2020年の東京オリンピックでメダル獲得が最も期待されるのが清水希容(しみずきよう)選手です。
今回は、女子空手の「型(形)競技」であっぱれな強さを見せる、大注目の清水希容選手について、人物像と彼女の強さの秘密に迫ります。
更に、沖縄から始まった空手が今や世界中に浸透する中で、日本国内の競技人口が一体何人ぐらいいるのかを調査してみました。
空手の「組手」と「型(形)」について
空手とは、琉球王国で生まれた武器を持たない武道、「手(テー)」に中国拳法の要素が加わって発展してきました。
当時、琉球王国では主に
- 首里手(シュリテ)
- 那覇手(ナハテ)
- 泊手(トマリテ)
という3種類の基本体系が存在し、そこからそれぞれ師範に教えられた弟子たちが自分なりにアレンジ、発展させることで実に数えきれない流派が生まれていきました。
ここで全ての流派を挙げることは数が多すぎて不可能ですが、代表的なものとして以下の4つの流派を紹介します。
- 松濤館流(ショウトウカンリュウ)
- 剛柔流(ゴウジュウリュウ)
- 糸東流(シトウリュウ)
- 和道流(ワドウリュウ)
となります。
流派によって技のスタイルはそれぞれ独自性がありますが、空手における「組手」と「型(形)」に対する考え方は共通事項となっています。
「組手」とは、
- 主に二人で相対して行なう練習形式です。
その「組手」は更に、
- 「約束組手」:決まった手順に従って技を掛け合うスタイル
- 「自由組手」:決まった手順は関係なく互いに自由に技を掛け合うスタイル
- 「組手試合」:二人相対して勝敗を目的にするスタイル
の3つのスタイルに分けることができます。
特に組手試合では、防具付きスタイルや寸止めスタイル、またフルコンタクトスタイルなど様々な形式で試合が行われています。戦後において、これといった統一ルールが制定されていなかったことによりこのような組手試合の多様性が生まれたのではないかと考えられます。
この「組手」に対して、「型(形)」は
- 各種の技を決まった順番で一人演武する練習形式の一つです。
各種の技を何千、何万回と繰り返し練習することで、空手の立ち方、打ち方、防ぎ方をしっかり身体に覚え込ませるために行なうのがこの型(形)練習ということになります。
相手を想定した上でのいわばイメージトレーニングのようなものですが、しっかりと動きを身体に覚え込ませることができれば、実践、つまり、組手においても無駄のない動きが再現できるようになりますよね。
これは、他のスポーツにも共通する重要な練習要素となります。どんなスポーツであれ、繰り返し基本を練習するのは実践において日頃の練習の成果をいかんなく発揮するための重要な要素となるのと同じです。
この「型(形)」では空手の技を演武するわけですが、「型(形)」によってその演武時間は数十秒から、中には数分かかる場合があります。これに加えて「型(形)」の種類は流派ごとに数十種類存在するため、自身が所属する流派の全ての「型(形)」を完全に身体に覚え込ませるには相当な練習の積み重ねが必要となります。
「型(形)」の試合では、指定した種類の「型(形)」を、決まった順序で、リズム、姿勢、足先、指先にまで意識を集中させながら寸分のくるいなく演武することが求められます。そのため試合において、そのキレキレの動きを見せる「型(形)」の演武は、観るものを魅了します。
2020年の東京オリンピックから正式競技として採用が決まった空手競技では、男女それぞれにおいて「組手競技」と「型(形)競技」が体重別で行われます。長い歴史の中でオリンピックの檜舞台に初めてお目見えすることになった日本発祥の空手ですが、今から非常に楽しみとなります。
空手「型(形)」で注目の清水希容選手とは?
これから更に注目の的となっていく空手競技ですが、着々と迫る東京オリンピックにおいて空手女子の「型(形)」でメダル獲得の期待がかかる選手の一人が、清水希容(しみずきよう)選手です。
一方でとても可愛いとの評判も高い「清水希容」選手は、
- 生年月日:1993年12月7日(2018年5月現在24歳)
- 出身地:大阪府吹田市
- 出身高校:東大阪大学敬愛高校(空手道部は女子のみ)
- 出身大学:関西大学(空手部は1938年創部)
- 流派:糸東流
- 身長:160cm
- 体重:56kg
- 血液型:AB型
- 所属:株式会社ミキハウス
清水希容選手が空手を始めたのは、彼女が小学校3年生の時、兄が先に空手を始め、それに影響を受けたとのこと。しかもその空手道場では「型(形)」を習う選手が多くいたため、自然と「型(形)」を習い始めたようです。
兄弟姉妹の間では、兄や姉が始めた習い事に影響されて弟や妹が同じ習い事に走るというのはよくあることですよね。その習い事が続くかどうかはまた別の話になりますが、清水希容選手の場合、続けてこれたということはよほど空手を好きになったことが容易に想像できます。
清水希容選手の努力が花咲いた高校3年生
小学3年生から空手の「型(形)」にのめり込んでいった清水希容選手ですが、中学から高校2年まで全国3位という実績を重ねていますので人並み以上の実力があったことは確かですね。
ところが清水希容選手が入学した高校は空手の強豪校で知られる東大阪大学敬愛高等学校です。周囲からの期待がプレッシャーとなる中、それまで、先代の先輩たちが守ってきた連覇の実績を清水希容選手が2年生の時に止めてしまったといいます。
純粋に、無邪気に楽しむ空手から勝ち負けを意識せざるを得ない中で大きな挫折を味わうことになったわけです。この時、清水希容選手は初めて空手を辞めることも考えたというから、彼女の落胆ぶりがかなりのものであったことが想像できます。
しかし、この大きな挫折で空手を辞めることなく乗り切ったあたり彼女のメンタルの強さは半端ないレベルであったと想像できます。そして翌年の2011年、彼女が高校3年生の時に何とインターハイで全国優勝を果たします。
清水希容選手の快進撃のスタート
2011年、高校3年の時のインターハイ優勝を皮切りに清水希容選手が積み重ねた努力が堰を切ったように開花し始めます。今年2018年までの戦績は以下の通り:
- 2011 全国インターハイ 優勝
- 2011 WKF(世界空手連盟)世界ジュニア空手道選手権大会 優勝
- 2011~14 全日本学生空手道選手権大会 4連覇
- 2012・14 FISU(国際大学スポーツ連盟)世界大学空手道選手権大会 優勝
- 2013 WKF世界空手道選手権大会アンダー21 優勝
- 2013 東アジアオリンピック 優勝
- 2013~15 国体 3連覇
- 2013~17 全日本空手道選手権大会 5連覇
- 2014 アジア競技大会 優勝
- 2014 WKF世界空手道選手権大会 優勝
- 2014・15 WKF沖縄プレミアリーグ大会 2連覇
- 2015 WKFパリプレミアリーグ 優勝
- 2016 空手1プレミアリーグ ザルツブルグ大会 優勝
- 2017 プレミアリーグ ロッテルダム 優勝
- 2017 ワールドゲームズ ポーランド・ヴロツワフ大会 優勝
- 2017 空手1シリーズA トルコ・イスタンブール大会 優勝
- 2017 空手1シリーズA 日本・沖縄大会 優勝
- 2018 空手1プレミアリーグ パリ大会 優勝
- 2018 空手1シリーズA グアダラハラ2018 優勝
- 2018 空手1 シリーズA 2018ザルツブルグ大会 優勝
とてつもない戦績です。2011年から実に17年間、清水希容選手は常に優勝という二文字があたりまえの世界に君臨しています。
高校2年生で味わった挫折が、彼女にとって正に大きな転機となったのは間違いありません。誰でも大きなジャンプをしようと思えば、その前には一度しっかりしゃがみ込む必要があるとは言いますが、正に絵に書いたような飛翔ぶりとなりました。
この好調ぶりを維持して今後も破竹の勢いで突き進んでもらいたいものです。
清水希容選手の強さの3つの要素とは?
誰が見ても納得の、とてつもない清水希容選手の空手「型(形)」の強さは一体どんなところから生み出され、保たれているのでしょうか?
そこには、小学3年生から空手の世界にのめり込んだ彼女の空手への取り組み姿勢はもちろんのこと、その彼女の性格や人柄に、強さを生み出す要素が散りばめられているようです。
空手の型(形)に惚れ込んだ清水希容選手
清水希容選手が空手を始めたのは兄の影響でしたが、早々にお兄さんは空手を辞めてしまいます。清水希容選手はというと、練習がしたくてしたくてたまらなかったようで、練習に行きたくない兄と度々に喧嘩していたとのこと。
ここに清水希容選手の空手に対する熱い想いが感じ取れます。やはり、先ずはとことんまで好きであるからこそ、ハードな練習も楽しくてしょうがない。楽しんでやるこからこそ、人の何倍ものスピードで練習したことが身に付いていくのではないでしょうか。
心底楽しむ心で空手の「型(形)」に取り組んできたことにが清水希容選手の人並みはずれた強さに繋がっているのだと思われます。
高校2年で味わった屈辱が強くなるきっかけ
高校2年生で味わったそれまでの連覇記録を止めてしまうという屈辱的な経験が、清水希容選手の危機感を煽ることとなります。
当然ながら、彼女自身の中での悔しさは尋常ではなかったことは容易に想像できます。空手の「型(形)」がとことんまで好きだっただけに、この時の屈辱的敗北は、彼女の悔しさを倍増させたのだと思われます。
実際、清水希容選手は高校2年から高校3年にかけての1年間は正に死にものぐるいの日々だったと語っています。1年間、「今度こそ勝つ!」という目標に向かって、練習を積み重ねたといいます。
負けた悔しさは誰でも持つ感情です。ところが清水希容選手のようにその悔しさを持ち続けるとなると誰にでもできることではありません。大抵の場合は、悔しいという感情は長くても数日で薄れていってしまいます。どこかで妥協してしまうことが多いものです。
この悔しさを、次の目標としっかり連動させ、ブレることなく日々のハードな鍛錬を積み重ねる姿勢に清水希容選手のメンタルの強さを感じさせられます。
たとえ優勝しても、そこに油断をすることなくより高いレベルを目指す姿勢がまた清水希容選手が数々の大会で優勝するという結果に繋がっていると分析できますね。
決して天狗にならない心理が強さを生む
数えきれないほどの国内外での優勝回数を誇る清水希容選手は、優勝した試合でも常に自分の「型(形)」の演武を振り返り、反省すべきポイントを余すところなく見つけ、更に完成度を高めるための練習に余念がないようです。
たとえ結果的に優勝できたとしても、演武の内容の完成度が高くなければ優勝の価値は無いと清水希容選手は語っています。
同時に、彼女は自身がとてもどんくさい人間であると発言していたこともあるようで、その心理が「どんくさいからこそ人以上に努力しなければならない」という気持ちにつながっているのではと考えられます。
そのため、どんなに優勝を重ねても決して天狗にならず、「まだまだ」という低い心で空手に向き合い、純粋な心で練習を1日1日積み重ねていくところが彼女の更なるレベルアップを促していると考えられます。
空手だけに限らず、得てして天狗になってしまうと心理面で隙ができてしまうものです。この隙が生まれない考え方が自然にできているところに清水希容選手が強くあり続ける要素になっているのではないでしょうか。
この空手「型(形)」に対する真摯な姿勢を崩すことなく、更に実績を積み重ねていっていただきたいものです。
日本の空手の競技人口は何人?
長いオリンピックの歴史の中で空手は競技種目に一度も採用されたことはありませんでした。だからこそ、2020年の東京オリンピックで空手が正式種目として採用されたことは多くの空手家及び空手ファンにとっては大きな喜びとなったに違いありません。
現在の沖縄県が発祥となったこの空手ですが、日本での競技人口は一体どれぐらいなのでしょうか?調べてみると、意外な数字が見えてきます。
先に紹介した日本空手の四大流派である、松濤館流、剛柔流、糸東流、和道流に所属する空手選手は合計すると約120万人ほどです。但し、空手の流派はこれ以外にも数多く存在するため、実際には200万人を遥かに超える数字になると思われます。
ちなみに以前からオリンピックの定番競技として認知されている柔道の競技人口は、国内では約18万人、レスリングは約1万人となります。また参考までに野球であれば約23万人となるため、空手競技人口は:
- レスリング競技人口の約200倍
- 柔道の競技人口の約10倍以上
- 野球の競技人口の約10倍弱
と、その多さに驚かされます。
世界でもかなり多い競技人口を誇る空手
世界規模となると、空手の競技人口は約6500万人以上にもなります。1961年に世界空手道連盟が設立され、大きく分けてエリアごとに下記の5連盟が組織されています。
- ヨーロッパ空手連盟(53カ国)
- アジア空手道連盟(43カ国)
- アフリカ空手連盟 – 南アフリカ空手会(49カ国)
- オセアニア空手連盟(12カ国)
- 全米空手連盟(36カ国)
実に世界193にもおよぶ国がそれぞれのエリアの空手道連盟に加盟しています。
柔道やレスリングというオリンピックではおなじみの競技の世界競技人口はというと、
- 柔道の競技人口は約130万人
- レスリングの競技人口は約100万人
となっており、世界規模でも、空手の約6500万人という競技人口は柔道の50倍、レスリングの65倍と、その多さに驚かされますよね。
ちなみにいつでも世界が熱狂する、こちらもオリンピック競技の定番中の定番であるサッカーはというと世界での競技人口は約2億5000万人と破格の数字になりますが、世界への浸透度からいえば、空手も引けをとりません。
これだけ世界に浸透した競技である空手がなかなかオリンピック競技に正式種目として採用されなかったのには、前述した流派があまりにも多くなりすぎたということがあるのかもしれません。
更に、流派ごとに「型(形)」が少しずつ違っていることから、世界規模の競技とした場合に統一した評価がしにくいということがあったとも考えられます。
2020年の東京オリンピックを機に、更に統一化されたルールに基づいた競技へと発展し、オリンピックの定番競技として確固たる地位を確立していってもらいたいところです。
今回の記事のまとめ
- 空手は琉球王国(現在の沖縄県)で生まれ中国拳法の要素が加わって発展してきた
- 空手には「組手」と「型(形)」の2つの練習形式がある
- 空手の「組手」とは二人で相対して行なう練習形式である
- 空手の「型(形)」とは各種の技を決まった順番で一人演武する練習形式である
- 空手女子の「型(形)」で無敵を誇る注目の選手が清水希容選手である
- 東京オリンピックで清水希容選手は空手女子の「型(形)」のメダル獲得の期待が大
- 清水希容選手の強さは空手への愛情、屈辱的敗北の経験と低い心で練習に臨む姿勢にある
- 日本国内の空手競技人口は柔道やレスリングの競技人口を遥かに凌ぐ120万人以上
- 世界における空手の競技人口は193カ国、6500万人以上
今回は、2020年の東京オリンピックで正式種目として採用された空手のルーツと競技人口について紹介するとともに、空手女子の「型(形)」で無敵の強さを誇り、オリンピックでメダル獲得の期待がかかる清水希容選手の強さの秘密に迫ってみました。
一人演武となる「型(形)」は何といっても、演武のキレが観るものを魅了します。2020年夏時点で清水希容選手は26歳となりますが、抜群のキレを保ちつつ、深みのある演武をもって今度はオリンピックという大舞台で頂点に立つことを期待したいところです。